山岳医療救助情報 Mountain Medicine and Medical Rescue Information

アラスカ寒冷障害GL(2005):低体温症

アラスカ州寒冷障害へのガイドライン2003(2005改訂)

(2) 低体温症 -1.総論

A.濡れていようと乾いていようと、陸地であろうと水中であろうと、低体温症の評価と治療は類似している。特異的な違いは次のページで扱う。

B.重症低体温症患者は非常に丁寧に扱わなければならない。冷却した心臓は、いかなる動揺や体動でも、自発的な心室細動を、極めて発症しやすくなる。患者への注意深い動作でさえ心室細動を誘発しうる。

C.冷却された患者において、核心温はバイタルサイン(生命兆候)の1つである。ABCという用語において下記のように考える
A-Airway 気道
B-Breathing 呼吸
C-Circulation 循環
D-Diagnosis(Degrees) 診断(体温)

D.冷却された患者において、体幹の核心温が重要なサインになる。体幹の核心温を得るのは低体温症を評価し治療するのに重要で有用であるが、特定の温度における個々の生理的反応は非常に多様であり、低温を測定できる体温計が常に使用できる訳ではない。それゆえ、このガイドラインは、単に患者の測定された体温に基づくものではない。核心温は、もし食道プローベが使用でき、プローベの挿入と使用の訓練を受けた人がいるなら、食道プローベで測定されたものが一番良い。もし食道温のモニタリングが使用不可であったり適当でないなら、鼓膜音か直腸音を用いられるべきである。

E.体温の評価 1.患者体温の最も簡易な評価は患者の腋窩、背中、胸の皮膚に、素手を置く事かもしれない。もし皮膚が温かく感じれば、低体温症ではなさそうである。しかしながらこの方法は患者の核心温を評価する信頼性はない。 2.冷たい皮膚の患者は低温測定可能な体温計で核心温を測定すべきである。家庭用の体温計はこの状況では役に立たない。21℃以下では低温測定用の温度計が有益である。 3.腋窩と口腔内測定は核心温の評価価値が劣る。しかし低体温症を除外するには用いられるかもしれない。食道温モニタリングは低体温症患者の温度管理として好ましい方法である。鼓膜音測定機器は、多くの診療所で用いられるものとは異なる。直腸音は、核心温よりかなり遅れタイムラグがあるが食道温や鼓膜音が使えないなら役に立つかもしれない。核心温を評価する他の方法も存在することは知られている。食道温の測定以外の他の測定方法を現場で用いるには、それらの精度や特徴を評価すべきである。食道温以外の測定方法を使用する決定は管轄の医師に相談をすべきである。
注意:電子体温計は寒冷の中での使用は正確でないかもしれない。寒冷はバッテリー寿命を縮めるため、代替品であるバッテリーに依存しない体温計を対策として用意しなければならない。

F.低体温症患者は外傷や疾病が併存しているかを注意深く評価されなければならない。低体温症の兆候と症状はアルコール、糖尿病高山病、過剰服薬、疲労、他の状態とも似ているかもしれない。結果として、患者の総合的な評価が必須である。重大な疾病や外傷を伴うと、低体温症を増悪させうる。

G.もし凍傷を伴う骨折/脱臼があれば、四肢はneutral position(四肢が四肢らしく見える様)に置き、副木をする。凍傷をおこした組織に外傷を加えないよう注意を払う事。副木は四肢の血流を締め付けたりしないようする。

H.低体温症患者に使用する酸素、液体(飲料、静脈内投与)は、最低患者の核心温までは、全て温める様に努める。(これらの液体は救助者の上着の中に運ばれよう。)液体は体液容量の増加が目的で、加温の為ではない。もし液体投与による蘇生が必用なら、静注をする(持続点滴より)。それから生理食塩水で静脈ラインをロックする。静注は必用であれば、追加されうる。

I.冷たい皮膚は外傷を受けやすいので、直接熱源や過剰な圧を接触させるのは避けるように。(血圧計、くるんでない温かい水筒など)

J.化学性の温熱パック(ホッカイロなど)は患者を温めるのに無効である。もし患者の手足が凍傷を負っているなら、化学性の温熱パックは搬送中のさらなる傷病の悪化を防ぐかもしれない。ある温熱パックはあまり熱容量が大きくないかもしれないが、熱傷をおこしうる。(表面温度が50℃)

K.低体温症患者が皮膚の色・瞳孔の散大・生命兆候の低下のため救助の限界を超えているようでも、蘇生されうることを仮定しなさい。重症低体温症に罹患した患者も蘇生されているからである。蘇生中に話す会話にも注意を払う。意識の無い患者も、しばしば言われた事、された事を覚えているようである。

L.重症寒冷傷病者への遭遇は比較的珍しい。結果的に、最初の応じる人がこれらの状況のマネージメントを事前に計画してあり、適切な装備に馴れている事が必用である。

M.低体温症患者の治療される救急車内やいかなる部屋も、さらなる熱喪失を防ぐに足るよう加温されるべきである。理想は27℃。

N.救助者は州の法律・地域の内規に従うべきである。一般的には、心肺蘇生はもし患者が下記であるなら始めるべきでない。 ・冷たい水への溺水が1時間以上 ・核心温が10℃以下 ・明らかな致命的外傷(体の切断など) ・凍っている(気道が凍っている) ・胸壁が硬く圧迫が不可能 ・救助者が疲労あるいは危険な状態 ・3時間以内に確実な治療が可能である場合

O.低体温症を評価する場合、あるいは冷たい水から患者を引き上げた場合は、心臓の活動(脈)の最初の確認は、60秒すべきである。

P.もし患者が行きをしていない、循環サインが無いなら、3分間人工呼吸する。これは最初に検知できなかった心臓の動きを改善するかもしれない。(脈拍を増加させる and/or 血圧を上昇させる)

Q.それから、心臓の活動が無いと仮定する前に、もう一度心臓の活動(脈)を60秒確認する。
呼吸も無い、循環の兆候も無い患者においては、臨床決断は心臓のモニタリングと高度な医療施設での医療に基づいてなされる。 ・もし心臓のモニターができず、3時間以内に高度医療ができるなら、人工呼吸(可能なら挿管)を継続する。さらなる冷却から保護司、胸骨圧迫は始めない。救助隊を待つ。胸骨圧迫の開始は、検知できないが弱い脈で血液が循環していた患者において、突然の心室細動の発症を促進するかも知れない。胸骨圧迫が心室細動をおこすと、その循環失われるだろう。 ・もし心臓のモニターができず、3時間以内に高度医療が受けられないなら、人工呼吸(可能なら挿管)を継続し、30分胸骨圧迫を開始。一方で患者を温めるよう試みる。自己心拍の回復が不成功なら、EMT, 救命救急士、医療補助者、医師が死亡宣告をしてもよい。 ・もし心臓モニターが可能であれば、適切なガイドラインに従う。AEDガイドラインは7Sに記載されている。マニュアルの除細動ガイドラインはEMT-Ⅲ/救命救急士の項(p21-22)に記載されている。 ・担架搬送中の心肺蘇生は効果的でなく、試みるべきではない。

R.アラスカ州では、法律(AS18.08.089)がEMT、救命救急士、医療補助者に現場での適切なALS(Advanced Life Support)を30分施行した後に、低体温症患者でさえ、死亡宣告する権限を与えている。もしALSができないなら、現在の法律は、現場での死亡選考の前に、EMTに低体温症患者の復温と連携した60分の心肺蘇生をするよう要求している。この法律は救急外傷technicianと一般人が死亡宣告する権限を与えていない。

S.AED(自動電気除細動器)は心室細動(心臓の活動)の有無を確かめるのに役に立つだろう。AEDは、脈の記録でなく、心室細動か心室頻拍か電気ショックが必用な脈を検信号で知らせる。電気ショックが不要な信号は、患者が心停止なのか電気ショックが不要な脈があるのかは教えてくれない。これは無脈性活動(PEA)も含む。

T.低体温症患者のヘリコプターで移動するときは、ヘリコプターのローターによる冷却効果でさらなる寒冷への暴露から保護しなければならない。患者をヘリコプターに載せたり降ろしたりの間、もしヘリコプターが着陸できるなら、ローターによる風を減らせうる。もしこれが航空観点から安全でないなら、患者は凍傷と低体温症の原因あるいは悪化を招きうるさらなる熱喪失・皮膚の暴露を避けるため、注意深くくるまなければならない。

分類 核心温 体外からの熱源なしで
患者が体温回復する身体能力
臨床所見
正常 35℃以上   寒冷の知覚
震え
軽症 35-32℃ 良好 肉体障害(運動)
・良好
・鈍い
精神障害
・正常
・錯綜
中等症 32-38℃ 制限あり 30℃以下では震えが停止。
意識消失。
重症 28℃以下 不可 硬直
生命兆候低下・消失
機械的な刺激による
心室細動の重篤なリスク
25℃以下 不可 心室細動が自然発症
心停止

※ 青字はステージ間の主要な基準

(4) 低体温症 -3.一般人用ガイドライン

A: 患者評価

1.軽症低体温症:冷たく、次の兆候を有する患者を軽症低体温症とみなす a.意識清明 b.生命兆候の低下なし c.活発な震え

2.中等症または重症低体温症–体温32℃以下に相当。冷たく、次のいずれかの兆候あるいは症状を有する患者は中等症から重症低体温症とみなす a.徐脈や呼吸数の低下といった生命兆候の低下 b.意識レベルの変化 (発語不良、つまづき、知的技能の減弱、言葉や疼痛刺激への反応低下を含む) c.非常に寒いが震えが消失 (注:この兆候は酩酊状態では変化し信頼性が無いかもしれない)

B: 低体温症の基本治療

1.さらなる熱喪失を防ぐ a.地面からの保温、遮断 b.風をよける、濡れた衣服を脱がす(シェルター内で)
頭首を含めた着衣
湿気からの隔離(大きなゴミ袋など)
温かい環境への移動

2.救助要請

3.タバコ・酒禁止

C: 軽症低体温症への治療

1.B治療

2.もし医療施設に到着できない、あるいは医療設備への到着まで30分以上要する場合、以下の方法を1つ以上用いて復温をしなさい。 a.活発な震えは熱産生に最も重要な手段である。糖分を含む飲物でカロリーを補給し、震えを促進する(糖分を含む事は温かい飲料より重要) b.吸い込むことができ、気道を誤飲から守れるないなら、飲水禁止 c.高熱源で加温(首、腋窩、鼠径、胸壁) d.寝袋(正常体温者と同じ寝袋に入るのは可、他の低体温症者と入るのは禁止) この方法は活発な震えのある人の核心温の上昇を速めないかもしれないが、震えの無い人をゆっくり復温するだろう。 e.もし意識清明で動けるなら、温かいシャワーやお風呂も考慮 f.軽い運動(歩行、何かを軽く昇降等)は熱を産生し有益である。但し患者自身の体が乾き、カロリー補給し、少なくとも30分安定してから。

D: 生命兆候のある中等~重症低体温症

1.丁寧に扱う(四肢をいじったりこすらない, 衣服は切って脱がす)

2.下記除外項目が無ければB(基本治療)C(軽症治療)を継続 a.加温できるまで座らせない立たせない(hot showerやbath禁止) b.飲食禁止 c.運動や歩行による熱産生禁止

3.定期的に身体所見を再評価x

4.迅速に医療施設へ搬送

E: 生命兆候の無い重症低体温症

1.B治療

2.呼吸と、脈を60秒確認。もし患者の呼吸も脈も無いなら、3分間人工呼吸する。再度呼吸と、脈を60秒確認。もし患者がまだ呼吸も循環もなく、Appendix C にある禁忌項目がなければ、3時間以内に専門施設に搬送できない場合のみ、胸骨圧迫を開始する(総論Q参照)。

3.人工呼吸には、口対口人工呼吸を用いる

4.定期的に身体所見を再評価x

5.迅速に医療施設へ搬送

(5) 低体温症 -4.現場に最初に駆けつける医学的訓練を受けた人

A: 患者評価

1.軽症低体温症:冷たく、次の兆候を有する患者を軽症低体温症とみなす a.意識清明 b.生命兆候の低下なし c.活発な震え

2.中等症または重症低体温症–体温32℃以下に相当。冷たく、次のいずれかの兆候あるいは症状を有する患者は中等症から重症低体温症とみなす a.徐脈や呼吸数の低下といった生命兆候の低下 b.意識レベルの変化 (発語不良、つまづき、知的技能の減弱、言葉や疼痛刺激への反応低下を含む) c.非常に寒いが震えが消失 (注:この兆候は酩酊状態では変化し信頼性が無いかもしれない)

B: 低体温症の基本治療

1.さらなる熱喪失を防ぐ a.地面からの保温、遮断 b.風をよける、濡れた衣服を脱がす(シェルター内で)
頭首を含めた着衣
湿気からの隔離(大きなゴミ袋など)
温かい環境への移動

2.救助要請

3.タバコ・酒禁止

4.酸素(可能なら42℃, 加湿)

5.外傷処置:骨折には副木, neutral 体位, 凍傷への外傷を避ける

C: 軽症低体温症への治療

1.B治療

2.もし医療施設に到着できない、あるいは医療設備への到着まで30分以上要する場合、以下の方法を1つ以上用いて復温をしなさい。 a.活発な震えは熱産生に最も重要な手段である。糖分を含む飲物でカロリーを補給し、震えを促進する(糖分を含む事は温かい飲料より重要) b.吸い込むことができ、気道を誤飲から守れるないなら、飲水禁止 c.高熱源で加温(首、腋窩、鼠径、胸壁) d.寝袋(正常体温者と同じ寝袋に入るのは可、他の低体温症者と入るのは禁止) この方法は活発な震えのある人の核心温の上昇を速めないかもしれないが、震えの無い人をゆっくり復温するだろう。 e.もし意識清明で動けるなら、温かいシャワーやお風呂も考慮 f.軽い運動(歩行、何かを軽く昇降等)は熱を産生し有益である。但し患者自身の体が乾き、カロリー補給し、少なくとも30分安定してから。

D: 生命兆候のある中等〜重症低体温症

1.丁寧に扱う(四肢をいじったりこすらない, 衣服は切って脱がす)

2.核心温を測定(測定訓練を受け、正当と認められる温度)

3.下記除外項目が無ければB(基本治療)C(軽症治療)を継続 a.加温できるまで座らせない立たせない(hot showerやbath禁止) b.飲食禁止 c.運動や歩行による熱産生禁止

4.定期的に身体所見を再評価x

5.迅速に医療施設へ搬送

E: 生命兆候の無い重症低体温症

1.B治療

2.呼吸と、脈を60秒確認。もし患者の呼吸も脈も無いなら、3分間人工呼吸する。再度呼吸と、脈を60秒確認。もし患者がまだ呼吸も循環もなく、Appendix C にある禁忌項目がなければ、3時間以内に専門施設に搬送できない場合のみ、胸骨圧迫を開始する(総論Q参照)。

3.人工呼吸には、口対口人工呼吸あるいは酸素と供にバッグバルブマスクを用いる。低二酸化炭素血症は冷たくなった心臓の心室細動閾値を低下させうるので、過換気にならないよう注意する。 1.バッグバルブマスクで低体温症者の人工呼吸をする時は1分間に6呼吸(通常の1/2) 2.口対口で低体温症者の人工呼吸をする時は1分間に12呼吸

4.救助者がAED使用の権限があり、ショックが必要であれば、3回1セットで除細動を施行すべきである。もし患者の核心温がわからないあるいは30℃以下であれば、患者の核心温が30℃以上に達するまでは最初の3回のショック後はAEDの使用を中止する。

5.もし心肺蘇生が30分以上復温手段とともになされ、自己心拍も自発呼吸も再開されないなら、拠点の医師に忠告を求めるために連絡をする。もしこの連絡がとれないなら、救急医療技術者(EMT)は、アラスカ州18.08.089と地域の実施要項に従い(総論Q参照)、蘇生を60分で終了する事を考慮しうる。

(6) 低体温症 -5.Appendix C

救助者は州法律と地域内規に従うべきである。一般的に、心肺蘇生は患者が下記状態では開始すべきでない。

・冷水に1時間以上浸かっていた場合
・核心温が10℃(50°F)以下
・明らかな致命的外傷がある 例:切断
・凍っている 例:気道が凍っている
・胸壁が非常に硬く圧迫が不可能である
・救助者の消耗と危険、またはその可能性
・専門治療が3時間以内に受けられる時

目次

各ガイドラインは以下にまとめております。こちらからご覧ください

アラスカ寒冷障害GL(2005):はじめに
 アラスカ寒冷障害GL(2005):低体温症
アラスカ寒冷障害GL(2005):雪崩救助
アラスカ寒冷障害GL(2005):凍傷

         

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