山岳医療救助情報

山岳医療救助情報

Mountain Medicine and Medical Rescue Information

子供と高山病

子供が高所に行くことによってどんなリスクがあるのか、研究は十分にされていません。ここでのアドバイスの多くは、子供の成長と発達への影響を十分に考慮して、大人のデータから推測されていますが、子供の登山を計画するにあたり、知っておくべきヒントを紹介します。 

「子供に推奨する高度とは?」

n   新生児および02歳の赤ちゃん

2歳までの乳児は、それ以降の年齢に比べると、身体にさまざまな解剖学的および生理学的な違いがあり、そのため病気やストレス(高地への曝露など)に対する反応が大人とは異なります。特に低気圧や低酸素に影響されやすくなることが指摘されています。標高 2000 メートルを超える場所は避けたほうが良いでしょう。特に、ケーブルカーなどで移動する場合、風邪をひいていたり、鼻や耳の症状がある場合は、圧力のバランスがとれないので、やめておきましょう。標高には徐々に馴れていくことをお勧めします。 

n  25歳のお子様:幼児

山小屋などで夜寝る標高は、3000mを超えないようにし、2500mまでに留めると良いでしょう。日中に登る標高は、ゆっくり順応しながら、それでも25003000 メートルまでを目安に登りましょう。症状が分かりにくいので、無理をせず、常に注意しながら登ることが必要です。(注意する内容は、次項に記載)

n  510歳のお子様:学童前半

一般に、3000 メートルまでの高度に対応できます。ですが、会話ができても、症状を上手に伝えることができる年齢は、一般に8歳以上とされています。お子様の状態を読み取ったり、上手に体調の変化を聞き出しながら、チャレンジすることが大切です。

n  10歳以上のお子様:学童後半以降

この年齢になると、調子が悪いことを自分で自覚したり、訴えることができるようになってきますので、標高自体に制限は無くなります。しかし、体調の変化が、高所によるものかどうか、は体験しないとわからないことが多く、初めて高山病になると不安も大きいものです。高山病について、登山前から親子で理解を深めて、高山病の症状を疑った時は、親子で対処できるようにすると良いでしょう。

「子供の高山病って、どう見分けるの?」

一般に8歳までの子供や、コミュニケーションが苦手な子供は、症状を説明するのが難しい場合があり、本人も周囲も高山病を認識しづらくなります。高山病の症状自体が、頭痛、吐き気、ふらつき、不眠など、他の病気や体調不良でも起こるため、わかりにくいのが特徴です。

標高を上げて、以下の症状があれば、子供が高山病のサインであると考えましょう。

  • 「ぐずる」
  • いつもと比べて  「元気がない」
  • いつもと比べて  「食欲がない」
  • いつもと比べて  「眠れない(山小屋などの山中で)」

症状がひどい場合や、2つ以上揃う場合は、下山しましょう。

[ケース:お父さんの焦り①]

診療所に、元気がないというお子様を連れてきて心配そうなお父さん・・

その子に、私が「頭痛い?」と尋ねると「・・・うん」と涙ぐんでしまいました・・・すかさずお父さんが、「そんなこと言ってなかっただろ!」と、ちょっと大きな声をあげました。怒ったようにも慌てたようにも聞こえるのですが、お父さんの心情は、気づいてあげられなかったご自身に焦っている、というのが一番のようでした。

伝えることが上手くできない子供の状態を、どう読み取ったり、聞き出すか、高山病の知識や経験がない親御さんがすること自体も、かなり難しいんですよね・・・

[ケース:お父さんの焦り②]

ケーブルカーでアクセスできる2600mのテント場。 8歳の子供とテント泊に来たお父さん。子供の具合が悪い、という連絡が入りました。お父さんは、お子様の横で、「やばい、やばい、やばい!!!」と焦るばかり。

元来健康なお子様で、急激にケーブルカーで標高を上げて、ザックを背負って小一時間歩いていたところ、頭痛と吐き気が出て、ぐったり。その日に摂った水分は100ml程度で、尿は朝1回、という典型的な「高山病+脱水」でした。

高山病は、寝ると、呼吸が浅くなって余計に酸素が取り込めなくなり、悪化しやすくなります。ゆーーーっくりテント場を歩いたり、座ってお話ししたり、寝かせないようにして、高所に慣れる時間をかせぎましょう。そして、水分を1リットルは摂りましょう、と話しました。おそらく、寒いはずなので、沢山着せて、湯たんぽを作ってあげてください、と話しました。翌朝には、歩いて下山できました。

「子供の高山病は、脱水と低体温症、3つセットになりやすい」

登山は、酸素の少ない環境を歩くため、酸素をより多く取り込もうと呼吸の回数が増えます。結果、吐く息から水分が逃げて、脱水になりやすくなります。そこに、高山病の症状である吐き気が出てくると、水分が摂れなくなり、一層脱水が悪化します。また、脱水は、高山病を悪化させやすい、とされています。

さらに、子供の体温調節機能は未熟であることも覚えておきましょう。吐き気があって食べることができないと、エネルギーが不足し、バテるほか、体温を上げることができず、低体温症になりやすくなります。食べれないお子様は、リスクが高いです。山では、朝晩の気温が下がりますので、防寒・保温着を必ず持っていきましょう。

「実は、旅行自体のストレスが大きい」

興味深いデータがあります。1600メートルから2835メートルまで登った子供のうち28%が急性高山病にかかった(558人のデータ)という一方、平地の旅行でも子供の21% が同じ症状にかかった(405 人のデータ)ということから、実は、旅行自体が子供に大きなストレスを与えていることが示唆されています。

[ケース:お母さんのびっくり]

8合目(3250m)にある富士山の診療所に来た6歳の子。朝4時に自宅を出てマイカーで移動し、車酔いになり、朝食は吐いてしまいました。5合目に到着した時は、吐き気がまだあり、少しだけ食べたものの、その後水分も食べ物も摂れず、それでも頑張って登ってきたそうです。8合目に来た時には、高山病+脱水+低体温、でした。

この子は、登山開始前から、脱水と疲労(睡眠不足)で、高山病になりやすくなっていました。

それでも、日本で二番目に高い北岳(3,193m)より高い標高まで登れたことを労うと、少しホッとしていました。

「子供の気持ち・・・」

診療所に来る子供にそっと聞いてみると、実に様々です。「山頂行きたい」という子もいれば、親の顔を伺う子や、あまり、どうしたいのか登りたいのか、下りたいのか、決められない子もいらっしゃいます。

「調子が良くなったら、上まで登る?」と聞いても、答えない子もいます。体調のせいというより、親御さんに気を遣っているようにも見られ、子供の思い出作り、というより、親の思い出作り、になっているように見える登山もあります・・・

兄弟についてきた元気なお子様でも、

「ゲームしたい」「帰りたい」「つまらない」など・・・

一方で、診療所では辛そうだったけれど、登頂できると、後から「とても嬉しかった、ありがとう」とハガキが届きました。成功すると大きな自信と喜びになるなあ、と実感しております。

上手に登山計画を立て、安全と登山の楽しみを、両立できることを願っています。

References:

  1. Poets CF, Samuels MP, Southall DP. Potential role of intrapulmonary shunting in the genesis of hypoxemic episodes in infants and young children. Pediatrics1992;90:385-91.
  2. Christie PE, Yntema JL, Tagari P, et al. Effect of altitude on urinary leukotriene (LT) E4 excretion and airway responsiveness to histamine in children with atopic asthma. Eur Respir J1995;8:357-63.
  3. Weiss MH, Frost JO. May children with otitis media with effusion safely fly? Clin Pediatr1987;26:567-8.
  4. Brown TP. Middle ear symptoms while flying. Ways to prevent a severe outcome. Postgrad Med1994;96:135-42.
  5. Pollard AJ, Murdoch DR, Bärtsch P. Children in the mountains. BMJ1998;316:874-5.
  6. M P Samuels. The effects of flight and altitude.Arch Dis Child.2004 May; 89(5): 448-455. doi:10.1136/adc.2003.031708
  7. CHILDREN AT ALTITUDE. ESSENTIAL ADVICE. In featured Mountain Medicine UIAA. 18/05/2017. https://theuiaa.org/uiaa/children-at-altitude-essential-advice/
  8. Theis MK, Honigman B, Yip R, et al. Acute mountain sickness in children at 2835 meters. Am J Dis Child1993;147:143-5.
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