山岳医療救助情報

山岳医療救助情報

Mountain Medicine and Medical Rescue Information

山岳救助は有料?

【結論】

・警察・消防による山岳救助では、救助にかかった費用が本人に請求されることは、一般的にありません。
・ただ
し、民間の救助隊、民間ヘリコプター、ロープウェイの時間外運行などが関わった場合は、費用が発生することがあります。
例外として、条例で手数料を定めている自治体があります(例:埼玉県の県防災ヘリ)。
費用の見通しが立たないことが、救助要請の遅れにつながります。判断の材料として、山岳救助の仕組みと、費用負担について、以下で順に説明します。

Q1:遭難したら、いくら請求されるの?

A1: 日本では、警察や消防が行う山岳救助について、救助活動に要した費用が遭難者本人に請求されることは、一般的にはありません。しかし、それは「救助に費用がかかっていない」という意味ではありません。救助活動に必要な人員や航空機、車両、装備などの費用は、公費によって社会全体で支えられています。
ただし、公的な救助であっても、条例により手数料を徴収する例外があります。
埼玉県では、指定された山岳地域で県防災ヘリによる救助を受けた場合、条例に基づき、原則として飛行5分ごとに8,000円の手数料がかかります。過去の平均救助時間は約1時間とされています。生活保護受給者や自然災害が原因の遭難などには、除外・減免規定もあります。(埼玉県公式サイトより)
また、民間救助隊、民間ヘリコプター、ロープウェイなどが関わった場合には、費用が発生することがあります。

Q2: なぜ警察や消防の救助は通常請求されないの?

A2: 警察や消防は、警察法、消防組織法、消防法などに基づき、人の生命・身体を守るための活動を担っています。山岳救助も、こうした公的機関の任務の一つとして実施されています。これは山岳救助に限った考え方ではなく、救急車の搬送、水難救助、行方不明者の捜索、山火事の消防活動、火災や災害への対応などにも共通します。 現在の日本では、警察や消防による救助活動は、国・都道府県・市町村などの公費により人員、車両、航空機、装備などを整備し、公共の安全を守る業務として、社会全体で支えられています。このため、公的な山岳救助では、救助活動に要した費用が遭難者本人へ個別に請求される仕組みにはなっていないのです。
費用をどのように負担するかは、法律、条例、予算、行政運用などによって成り立つ制度の問題です。
なお、これらは国籍を問わず、日本国内にいる人に等しく適用されます。

Q3: どのような場合に、費用が発生しますか?

A3: 民間の救助隊や事業者などが捜索・救助に関わった場合、その費用が遭難者や家族に請求されることがあります。
例えば、次のようなものがあります。
 ・地域の遭難対策協議会などによる捜索・救助
 ・家族等が依頼した民間捜索救助組織
 ・民間ヘリコプター
 ・ロープウェイや索道の時間外運行
 ・照明、車両、宿泊、交通などに要した実費

Q4: 民間の救助隊は、どのような場合に活動するの?

A4: 民間の救助隊や協力者が関わる経路は、大きく二つあります。
一つは、公的機関が、公的機関のみでの対応が困難な山域や時期に、地域の遭難対策協議会や救助隊などへ協力を求める場合です。地域によって仕組みは異なりますが、公的機関からの、委嘱、協力要請、協定等を受け、連携またはその指揮・調整の下で活動する、地域の事情に詳しい救助隊や協力者などが該当します。
もう一つは、家族などが民間の捜索救助組織へ直接依頼する場合です。これは、公的捜索と並行して行われる場合や、公的捜索の縮小・終了後に行われる場合があります。

Q5: 民間救助が出動すると、いくらかかるのですか?

A5: 費用は、地域、活動する組織、救助・捜索の内容、活動時間、参加人数などによって大きく異なります。
公的機関からの協力要請などにより活動する民間救助隊員については、一人につき、1日あたり数万円から5万円程度、またはそれ以上の費用が設定されている例があります。これに交通費、食費、宿泊費、装備費などが加わる場合もあります。
実際の救助や捜索は複数人で行われることが多く、活動が長時間または複数日に及べば、公的機関からの協力要請でも、総額が数十万円以上になることもあります。
また、救助隊の迅速な派遣や、遭難者の搬送のために、ロープウェイ営業時間終了後に、ロープウェイ等を運行した場合、遭難者へ請求された事例があります。また、捜索に必要な照度を維持するために、投光器等を使用した場合の電気料金等も請求された事例があります。金額は、個別によりますが、数十万円以上かかっていた例があります。
ただし、費用の設定や請求の有無は地域や組織によって異なり、金額を公表していない自治体や事業者もあります。ここで示した金額は、全国共通の料金や、すべての事案で請求される金額を示すものではありません。
(本項の金額は、複数の遭難対策協議会への聞き取り、事例は救助関係者への聞き取りに基づく20267月時点での情報です)

Q6: なぜヘリコプターが必要なのか?

A6: 山岳救助では、徒歩で数時間から十数時間、時には1日以上かかる現場もあります。
ヘリコプターによる救助が可能な場合は、短時間で救助隊員や必要な資機材を現場へ投入したり、傷病者を迅速に医療機関へ搬送できるという大きな利点があります。また、状況によっては、徒歩で長時間救助に向かう隊員の負担を軽減したり、救助活動全体を効率化できる場合もあります。
一方で、ヘリコプターは天候や風、視界、地形などの影響を受けやすく、飛行できないことも少なくありません。そのため、山岳救助はヘリコプターだけで完結するものではなく、地上の救助隊との連携が欠かせません。

Q7: ヘリコプターは、なぜ高額なの?

結論から言えば、ヘリコプターの費用は「飛んだ時間」だけで決まるものではなく、いつでも安全に飛べる状態を保ち続けるための費用が大きな割合を占めているからです。

◼️ヘリコプターの運航には何がかかるの?
ヘリコプターは、「飛ぶこと」だけが仕事ではありません。

災害、事件・事故、救助など、いつ起こるかわからない事態に備え、必要なときに安全に飛べる状態を維持するため、日頃から整備、訓練、点検、待機体制など、多くの準備が行われています。このため、ヘリコプターの運航には、飛行時間だけでは表せない多くの費用がかかります。
実際には、山岳救助に出なくても、ヘリコプターには一定の費用がかかっているのです。

安全に飛行するためには、
 ・燃料
 ・機体の購入・更新
 ・定期点検・整備
 ・部品交換
 ・パイロットや整備士などの人件費
 ・保険
 ・格納庫
 ・運航管理
 ・日頃からの訓練・待機体制
など、多くの費用が必要です。
つまり、1時間飛ぶためには、その何倍もの準備と維持費がかかっています。

◼️一般的なヘリコプターの燃料消費量の目安

機種

燃料消費量(目安)

ベル412AW139BK117(中型機)

380480L/時間

A109EC135(小型機)

230250L/時間

この燃料消費量は飛行方法によって大きく変わります。
目的地まで巡航飛行しているときは比較的燃費が良くなります。
一方、山岳救助において、遭難者を捜索するために低速で飛行したり、ホバリング(空中停止)、救助隊員の降下・遭難者の収容を続けたりすると燃料消費は増加します。また、一般的に、機体が大型で重量が重いほど燃料消費量も増える傾向にあります。

◼️実際にいくらかかっているの?
ヘリコプターの運航費用は、
 ・機種
 ・出動場所
 ・飛行内容
 ・飛行時間
などによって大きく異なりますが、民間航空会社への聞き取り(20267月時点)では、一般的な運航費用の目安としては、
  ・小型ヘリコプター:約65万円以上/時間
  ・中型ヘリコプター:約120万円以上/時間
とのことでした。

これらはヘリコプターを運航するために必要となる費用の目安であり、一回の山岳救助のために準備されている金額とは考え方が異なります。
また、遭難者へ請求される金額を示すものではありません。
このような運航コストは、公的ヘリと民間ヘリで基本的な構造は同じです。違うのは、「誰がその費用を負担するか」という制度です。
消防・警察・県の防災ヘリなどの公的ヘリは、公共の任務として出動するため、救助された方に運航費用そのものが請求されることは原則としてありません(ただし、一部の自治体では条例で手数料を定めている場合があります)。
一方、民間のヘリコプターが捜索行った場合は、運航にかかった費用が依頼者に請求されます。
つまり、「ヘリコプターにかかる費用が高額であること」と、「遭難者にいくら請求されるか」は、別の話として考える必要があります。
(本項の金額および事例は、民間航空会社への聞き取り(20267月時点)の情報です。)

Q8: 公的な山岳救助には、誰が関わっているの?

A8: 例えば
・警察・消防の山岳救助隊(地上から現場へ向かい、捜索、応急処置、搬送などを行う)
・警察・消防・防災航空隊(上空からの捜索、救助、隊員の投入、搬送などを行う)
消防救急隊
警察・消防通信指令(救助要請の連絡を受ける)
警察・消防の本部や担当者(救助要請の連絡を受け、調整を行う)
山小屋や関係者(現場が近い場合には救助に出たり、要救助者を一時保護するなど)
民間協力者(公的機関の指揮下で捜索救助を行う)
搬送先の医療機関(搬送の受け入れ調整、専門医療)
など、多くの人が関わります。

Q9: 「お金」以外のコストもかかっているのか?

A9: はい。金額として表れないコストも、実際に生じています。
・救助隊員が夜間・悪天候で二次遭難の危険を負うこと
・他の救急・災害対応の人員や航空機がその間使えなくなること
・長時間の捜索では多くの関係機関が動くこと
・家族や山小屋、目撃者への対応も含め、多くの社会資源が投入されること
山岳救助では、金銭で表せる費用だけでなく、多くの人の時間、危険、専門性、そして他の緊急対応に使われ得た資源も投入されています。救助は、こうした社会全体の支えによって成り立っています。

Q10: お金がないと救助してもらえなくなるのか?

A10: 警察・消防による公的救助について、支払いを事前条件として救助する仕組みではありません。支払能力ではなく、生命・身体への危険、救助の必要性、緊急性などに基づいて活動が判断されます。

Q11: 山岳保険は必要?

A11: 公的機関による通常の救助費用が本人に請求されないからといって、遭難時に費用が一切発生しないとは限りません。
警察や消防だけでは対応が困難な場合には、地域の遭難対策協議会や民間の救助隊員などが活動に加わることもあり、その費用が遭難者や家族に請求される場合があります。また、救助を要請する側が、「費用のかからない公的機関だけで対応してください」と、活動する組織や救助方法を指定できることは非常に難しいことです。これは、できるだけ迅速に効果的に捜索救助を行い、早期発見、搬送を実現するには、組織化体系化された中で、救助方針を構築して活動にあたる必要があるからです。
そのほかにも、家族が民間の捜索救助組織へ依頼する費用、ロープウェイ等の時間外運行、装備の紛失・破損、入院や通院、予定外の宿泊や交通など、さまざまな費用が生じる可能性があります。
山岳保険は、契約内容によって、こうした費用の一部を補償できる場合があります。加入する際には、補償額だけでなく、「捜索」と「救助」の両方が対象か、捜索・救助費用の対象範囲、民間救助が含まれるか、支払限度額、対象となる登山活動(冬山・沢登り・山岳スキーなど)、家族からの捜索依頼も補償されるか、免責事項などを事前に確認することが大切です。
山岳保険は、万一の経済的負担に備えるための大切な備えです。しかし、それ以上に重要なのは、遭難そのものを防ぐことです。十分な準備と適切な判断を心掛け、安全な登山を楽しみましょう。

コラム
ここまでは、法令や制度、公表資料などに基づく事実の説明です。ここから先は、山岳医療救助機構としての見解を含みます。

Q: なぜこのような制度になっているのでしょうか。

A: このような制度は、一つの理由だけで成り立っているものではありません。警察や消防の法的な任務、人命救助の公平性、費用を理由に救助要請が遅れることを防ぐという考え方、そして自治体が公共の安全を担うという役割など、さまざまな考え方によって支えられていると考えられます。

Q: 「払える人だけを救助する」時代が来るのか?

A: 仮に将来、一定の費用負担制度が導入されたとしても、通常は「払える人だけを救助する」「払える人から救助する」という仕組みではなく、一般的には、まず必要な救助を行い、その後に費用を扱う制度が想定されます。救命の判断と料金徴収を同時に行えば、支払いを恐れた通報の遅れによって生命が失われるおそれがあります。ただし、これは現行法に明記された一律のルールではありません。公的救助の任務と実務から導かれる整理です。

Q: 安易な救助要請の例

A: 本当にあったやり取りです。
「疲れたのでへりに来てほしい」
『到着まで3時間かかる』
「じゃあいいです。歩いて下ります。」
実際には、救助要請の段階では緊急性が高いと思われても、状況確認の中で本人が歩いて下山できることが分かる場合もあります。
救助要請を受けた時点で、警察や消防では状況確認や活動調整が始まります。ヘリコプターは希望すれば必ず来る交通手段ではなく、けがや体調、場所、天候、日没、他の救助事案などを踏まえて、救助方法が判断されます。

最後に

救助から得た経験を、遭難予防と社会へ

山岳救助は、救助隊員の経験と技術、航空機や救助装備、関係機関の連携、そして社会全体の支えによって成り立っています。
山岳医療救助機構が目指しているのは、単に一つの救助現場へ医療者を送り込むことではありません。現場で得られた経験や課題を、科学的に検証して次へつなげることです。
一つの現場に人と資源を投入すれば、その場では大きな成果につながります。ただし、公費で支えられる以上、それは登山者だけのための仕組みではありません。山岳救助のために積み上げた技術、装備、連携は、災害救助や日常の救急にも生き、山に入らない人の安全にも返っていきます。私たちが力を入れているのは、現場で得た経験を検証して知識や仕組みに変え、救助する側の技術と、登山者一人ひとりが自分の命を守る力の両方を高めることです。それが、次に山へ入るあなたの安全に返っていくと、私たちは考えています。
社会全体に支えられているからこそ、そこで得たものを社会へ還していくことは、私たちの責任だと考えています。

「費用を理由に、救助を呼ぶことをためらわないでください」

山岳救助の費用について説明してきましたが、費用の整理は、あとからでもできます。山に入るという判断をしたなら、救助を呼ぶ判断も、その救助がどのように行われるのかを知っておくことも、自分の責任です。必要だと感じたら、覚悟を決めて呼んでください。時間が経ち、状態が進むほど、救助は難しくなります。それは、安易な救助要請とは、まったく別のことです。一方で、十分な準備と適切な判断によって遭難そのものを防ぐことが、最も重要です。

関連する話題
#救助要請の仕方
#救助要請と待機の仕方
DKシェルター(救助をより安全に待つツール)
#登山計画書
#アウトドアファーストエイド講習会(自助能力を高めよう)

2026年8月4日更新

本記事の#キーワード

記事の引用に関して
当サイト内のコンテンツは、すべて著作権で守られています。
また命に関わる情報を含みますので、間違った解釈を招かないよう、無断での二次利用を禁止しております。
利用をご希望の場合は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。
引用の際には、著作物の題号や著作者名が明らかにわかる表示(サイト名・URL等)が必要です。
引用元のない利用を見かけた場合は、ご連絡ください。

講習会で学びませんか?

尊い命を守るために、応急・救命処置を学びましょう。あなたの技術が、大切な人や自分の命を守ります。日々の生活、職場でも活用できる生き抜く技術になります。

このファーストエイド講習会とは

カテゴリ一覧

CONTACTお問い合わせ

講習会のご依頼、出演依頼、その他
お問い合わせはこちらからお願いします

お問い合わせフォーム