道警式低体温症ラッピング<実践編>
ラッピングって?
「包む」という意味ですが、低体温症の予防と、かかってしまった人の治療を目的に考案した、傷病者をくるむ方法です。
くるむ方法は、医学的に検証されたメカニズムに基づき、現場で使用可能な資材を用いています。
ラッピングの実際
2010年の冬より、北海道警察山岳遭難救助隊の方とラッピングを検討して、実際に用いて効果を上げ、論文化しました。
「道警式低体温症ラッピングによる熱喪失抑制効果と山岳救助における病院前有効事例: 大城和恵, 村上富一, 西村和隆. 登山医学 vol.35: 48-54;2015」
「ここまでやるの?」
「こんな装備持たないでしょ。」
と一笑にしたドクターもいましたが、本当にこの装備で命を救ってきました!
だって、そこは病院ではないんです。
彼らはそういう訓練をしているんです!命を救うため、後遺症を減らすため、社会復帰を果たす人命救助のゴールを目指し、北海道警察の"標準"がこのラッピングです。
ラッピングの科学
・ラッピングの原理は「隔離・保温・加温」です。
隔離:最外層は、防水と防風
要救助者の下(地面)側を厚くする
保温:寝袋、エアマットで層を作る
加温:低体温症の救助を革新的に進歩させたのがこの"加温"です。詳細はこちら
熱源を加えないと効果は乏しいです。
・効果的なラッピングは「密閉性」です。
密閉性の乏しいラッピングは温度の低下が著しいことが検証されました。
換気口を開けておくこと
要救助者が呼吸をできるように、また要救助者の観察のために、くるんだ直後に顔面部分を開口させる。
あるいは、キャンディー状に巻き込む際に、救助者の腕を入れながら巻き込むと、開口しやすい。
ラッピングをしながら搬送
(写真:想定訓練、撮影:大城和恵)
写真の担架の上のブルーシートが、最初の写真で示した道警式低体温症ラッピングです。
ラッピングのまま雪上を引きずることは、雪面との抵抗があり非常に困難な上、最外層が崩れたり破損したりする恐れがあります。通常はスケッドストレッチャーや搬送具を用いて搬送します。
基本的に積雪期は機動力の高いスキーで移動していますが、状況により、スキーは仲間が担ぎ、つぼ足で運んだりもしています。
北海道の山は、標高は高くないですし、そびえ立つ岩峰も多くないのですが、大雪、日高のような山は裾野が広く、ヘリコプターの飛べない日などは、現場からの搬送に半日以上かかる場合もあります。
ラッピングによる治療効果と、搬送手段、二役同時に発揮します。
搬送中に、すっかり改善してしまった人もいます。
確保ロープって必要なの?
道警式低体温症ラッピンングを公開してから、要救助者に確保ロープを装着して顔の換気部分からロープを出す方法を行っているところがあるようで、これに対する質問を受ける機会が増えました。
Q: 確保ロープをとっていない理由は?
A:どこまでを想定して安全確保をとるかですが、複数の要因が重ならない限り、ラッピングが破綻して要救助者が脱落する可能性は低いため、過去の経験では、確保ロープが必要と判断した搬送はありませんでした (2018.12現在)。
搬送時は必ず担架類に固定しています。担架類の装備選定、点検、確実な縛着(担架類への固定)をしっかり行なっており、脱落は発生していません。
Q:確保ロープをとるのはどのような場合だろう?
A:(1)ブルーシート(ラッピング)のまま急な斜面を引っ張る(引き摺る)場合
(2)急峻な岩場を下ろす場合は確保があった方が良いでしょう。
ラッピングが破綻し要救助者が脱落する可能性をどう想定できるか、によります。破綻する原因、それにより要救助者が脱落するのであればどのような時間と経過をたどるのか、これを想定できると、確保の是非を判断できるでしょう。それを判断ができない場合は、全例、確保をとるとより安全になります。
Q:確保ロープによるデメリットは?
A:(1)ラッピング検証では、密閉性の低下は温度の低下をきたすことが検証されています。ロープの取り出し口が広がると密閉性が低くなり、科学的検証から外れ、本来の目的から離れ搬送手段としての目的が大きくなる。ラッピングを必要とする中等度以上の低体温症であれば体温低下の防止には効果が得られない。
(2)システムが少し複雑になり時間がかかる。
ラッピングは、救助者と要救助者のリスクをあげる方向には考案していません。
岩場を垂直に上げるなどで確保ロープをとる場合は、少し工夫をすると良いでしょう。
これは、アドバンスコースでお伝えします。
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