ICAR雪崩1999
IKAR国際山岳救助協議会医療部会 雪崩犠牲者の現場で治療勧告1999
International Commission for Alpine Rescue
Commission for Mountain Emergency Medicine
Recommendation of the Commission for Mountain
Emergency Medicine of 1999
On Site Treatment of Avalanche Victims
IKAR国際山岳救助協議会医療部会
雪崩犠牲者の現場で治療勧告 1999
医師・救急救命士用
H Brugger, B Durrer
Paper intended for physicians and paramedics
UK DIMM 大城和恵
(1)装備/患者の位置同定と救出/モニタリング/低体温症ステージング
雪崩事故は医療的救急事態である。迅速な犠牲者の救助の最終目的は、レスキューチームの安全とのバランスに基づいて、全ての決定がなされなければならない。地形と気象の要因に加え、雪崩の続発の可能性、雪の状態が評価されなければならない。"先を予測する"ことは救助行為の先導原理である。雪崩現場には救急医と/あるいは救急救命士、捜索犬と訓練士を、可及的速やかに連れて行く様つとめる。複数が埋まっていれば、より多くの医師/救急救命士必要である。
短時間の埋没の場合(35分以内)であれば、迅速な救出が最優先である。もし埋没者が重篤な状態にあれば、それは急性窒息か機械的外傷に起因するであろう。呼吸停止であれば、速やかに人工呼吸を開始し、回復過程も施行する。完全な埋没(頭と体幹の埋没)後は、いかなる場合でも病院に入院させ、24時間は経過を診る(呼吸器合併症:誤飲、肺水腫など)。
埋没時間が遷延した場合(35分以上)では、低体温症が予想される。それゆえ、救出は迅速さより、可能な限り丁寧にすべきである。Air pocketと気道開存は生存に必須である。このため、埋没者の顔をあらわにする際に、Air pocketと気道開存の有無を、絶対的に見極める必要がある。核心温が13℃以下では、復温の治療限界の低さであると考えられる。限界値付近の核心温は、鼓膜温では低い値に誤測定しるので、食道で測定されるべきである。多くの臨床医は、治療成績を悪くさせないように原則的に限界体温以下の治療は断っている。今日、非致命的外傷者ならば、もはや心肺バイパスによる復温の禁忌とはならない。複数の埋没者が同時に処置されなければならないなら、生命徴候のない埋没者の蘇生より、生存患者の生命機能の維持が、優先されなければならない。
装備
完全冬用装備。核心温測定の体温計、ホットパック、甘く温かい飲料。気道加温デバイスを考慮(加温・加湿酸素の吸入)。もし外気温が低いなら、バッテリーは充電を満たしておく。もし時間が十分にあれば、雪崩現場付近へ、医療処置用のテントを伴う装備をデポする。薬剤と医療機器(金属の喉頭鏡)は温めておく。例えば、ホットパックを救急医のバッグに入れておく、薬剤は着衣の中で体で温めて運ぶなど。
患者の位置同定と救出
救急医/救急救命士を位置を見つけた後で現場に呼ぶ。捜索中ではない。Air pocketを探す。(気道の開存を提供しうる口や鼻の前のいかなる空洞、どんなに小さくても構わない)
救出中に、存在するair pocketのいかなる破壊も避けなければならない。上から垂直に掘ってはならない。埋没者の横方向から対角線に掘っていく。
不必要な体幹と関節(肩、臀部、膝)の体動を絶対避ける。もし体動を避けられないなら、できるだけゆっくり埋没者を動かす。
モニタリング(患者医療監視)
心電図監視は救助中、常に行う。
雪中からの救出や引き出している間に誘発された不整脈や心室細動を検出する。
核心温を測定監視する。外鼓膜温を測定する場合は、耳管を乾かさなければならない。食道温測定では、食道下部1/3での測定を考慮する(低体温症Ⅲ-Ⅳで好ましい)。
経皮的酸素飽和度は、血流が中枢器官に集まり値が不適切になるので、注意を払わないこともありうる。
低体温症のステージング
スイスステージング(table 1)は、核心温の測定に基づかないため、非医療従事者の救助者でも確立しうるステージングである。
table 1
HT Ⅰ | 震えあり 意識清明 | 35-32℃ |
---|---|---|
HT Ⅱ | 震えなし 意識障害 | 32-28℃ |
HT Ⅲ | 意識無し | 28-24℃ |
HT Ⅳ | 生命兆候無し | 24-15℃ |
(2)現場での患者評価と治療
Figure 1にアルゴリズムを示す。全ての症例で、仰臥位で核心温と心電図モニタリング、酸素投与、保温を行う。気道加温を考慮する。もし数分以内に静脈路を確保できる場合のみ、0.9%生理食塩水と/または5%ブドウ糖を投与する。エピネフリンと昇圧剤を含むACLS薬剤の投与、は低体温症Ⅲ-Ⅳ°ではこれまでのところ薦められていない。心活動を刺激する薬剤は、催不整脈効果があるかもしれないし、中毒域に蓄積するかもしれない。ステージⅠ-Ⅱでは、ACLS薬剤は投与しうる。しかし、正常体温患者に用いるより、投与量において、より長い投与間隔で投与する。適応があれば、外傷治療も行う。
患者が意識清明あるいは傾眠
濡れた衣服を替える。不必要な体動を起こさないようにする(衣服を切る)。
温かく甘い飲料を、嚥下反射が保たれている場合のみ飲ませる。
最も近い病院かつ集中治療室のある病院へ。
意識の無い患者
挿管:低体温症のステージⅢ患者が事故現場で挿管されるべきかどうかはまだ議論を要す。咽喉等反射の保たれている患者の挿管は、薬剤投与が必要になる。治療と搬送中のさらなる熱喪失のリスクと、挿管の有益性と、相対的に評価されなければならない。心室細動を誘発する危険は無視してよい。
蘇生の準備をする。
集中治療室のある病院、かつ低体温症治療経験がある、または心肺バイパスを施行できる病院である事。
呼吸の無い患者
明らかな致命的外傷を除外する。
心肺蘇生・挿管を開始する。
埋没時間と核心温を確認する。
心停止:救急医によってのみトリアージをする。トリアージの目的は、窒息から至った低体温症Ⅳ°を鑑別し、復温を要する低体温症Ⅳ°の患者を人工心肺可能な病院へ搬送することである。クライテリア:埋没時間、核心温、air pocketと気道。Air pocketと気道の状態を、救急医か救助者により情報提供されなければならない。核心温は救助後直ちに測定されなければならない。遅れてからの測定は信頼性に欠ける。次の状況がありうる。
埋没時間=35分 かつ/または 核心温=32℃ :蘇生を継続、標準的なACLSガイドラインプロトコールに従う。
成功:集中治療室のある最も近い病院へ搬送する。
蘇生不成功:救急医は"急性窒息"による死亡を宣告できる。
埋没時間>35分 かつ/または 核心温<32℃:
・Air pocketあり・気道開存(あるいは不確か):低体温症Ⅳと想定。蘇生を続けなければならない。復温できるまで中止せずに続ける。それゆえ、蘇生を中断せずに継続できる時からのみ心肺蘇生を開始する。心肺蘇生は通常のガイドライン通りに継続しながら、人工心肺のある病院へ搬送する。もし交通・航空事情で人工心肺のできる病院に直接搬送できない時は、心肺蘇生を継続しながら最も近くの病院へ行き、血清カリウム(非可逆性の判断基準)を測定する。測定値が12mmol/lを越えていれば、蘇生は中止しうる。12mmol/l以下であれば、心肺蘇生の継続下で、人工心肺による復温可能な病院へさらに搬送を続ける。
・Air Pocket無し かつ/または 核心温<28℃:蘇生は救急医により中止し、窒息とそれに続発した体温低下による死亡、を宣告しうる。
核心温<28℃で心室細動:
電気的除細動は一般的に効果がない。100-300-360Jと出力を上げて、3回の試行をする。蘇生を継続しながら人工心肺可能な病院へ搬送する。
さらなる熱喪失を防ぐ:保温、ホットパック
2,3個の温熱バッグ、1アルミニウムホイル、2毛布、1帽子が必要
a) 2,3個の温熱バッグは直接肌につけず胸郭や上腹部の心臓付近に置く
b) 患者を動かす前に担架に2枚の毛布と1アルミニウムホイルを準備する
c) 患者に大きな動きを加えないように移動させる
d) 患者を毛布とアルミニウムホイルでぴったりくるむ
e) 帽子(体温び30-50%は頭から喪失する)
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